DWEが仕事に活きる
「人工衛星×AI」で世界の農業の未来を切り拓く!
2025年3月19日
打田 欽也
株式会社 農業DX推進研究所 代表取締役社長
PROFILE
三重県生まれ。DWEは4歳からスタート。東京大学農学部を卒業し、同大学院にて修士号を取得。農林水産省でスマート農業の普及や政策づくりに携わり、AI業界の外資企業でデータ解析やアプリ開発を担当。2024年に「株式会社 農業DX推進研究所」を設立し、代表を務める。
きっかけは「スマート農業」
─農業に興味をもったきっかけは?
大学で食糧問題についての授業を受けて、農業の現状や「スマート農業」という言葉を知ったことがきっかけです。当時は、「農業×IT」がとても話題になっていた時代でもありました。
もともとは経済学部だったのですが、そういえば自分は理系科目の方が好きだったなと思い出して、3年生のときに一念発起して農学部に転部し、スマート農業について勉強することにしました。
講義では、最新の農業技術について学びました。例えば、土に刺すセンサーを使って土の水分量や酸度(pH)を測ることで、作物に必要な水や肥料をちょうどいいタイミングで与えられる仕組みがあります。これにより、収穫量が増え、作物の品質も良くなります。また、カメラを使って畑全体の作物の成長具合を短時間でチェックする方法も学びました。これにより、成長が遅れている場所を早めに見つけて、適切な対策をとることができます。このように、経験や勘に頼らないスマート農業について学ぶことができました。
―進路を決められた経緯は?
農学部では「人工衛星の画像を使った分析」を研究テーマに選び、さらに詳しく学ぶために大学院に進みました。
ちょうどその頃、東日本大震災が発生し、大規模な津波被害が発生しました。そこで卒業論文では、人工衛星の画像を使って浸水した地域を見つける方法について研究しました。
この研究では、SAR(合成開口レーダー)という技術を使いました。SARは、夜でも雨の日でも地面の様子を捉えられる特別な人工衛星です。震災の前と後の衛星画像を比べて、どの地域が水に浸かったのかを特定することを目指しました。
SARには「偏波」という特性があり、電波が地面や建物、水などに当たると、それぞれ違った反射の仕方をします。たとえば、普通の土地では電波が跳ね返りますが、水の上では電波が吸収されてしまうため、SARの画像では水に浸かった場所をはっきり見分けることができます。この仕組みを使い、被害のあった地域を効率的に調べる方法を考えました。
また、この研究を通じて、人工衛星のデータは災害対策だけでなく農業にも役立つことを知りました。例えば、農地の土の状態をチェックしたり、作物の育ち具合を調べたりするのにも使えます。こうした技術を活用することで、農家さんが作物をよりよく育てるサポートができると感じ、スマート農業に携わる仕事がしたいと考えるきっかけになりました。
周りに官僚を目指す学生が多かったですし、当時はスマート農業の仕事をできる民間企業がなかったので、「農林水産省に入れば農業に関していろいろなことができる」と思うようになりました。
農林水産省を経て外資系企業へ
―農林水産省では、どのようなお仕事をされていたのですか?
はじめはコピー取りや議事録作成などの下積みから始まって、みんなで徹夜して国会の答弁を用意したりする日々でした。
地方出向で町役場に勤務したり、本省に戻ってからは国際部に配属されて貿易の関税の交渉をしたり、もう本当に多岐にわたる業務を経験させていただきましたね。
2年ごとにどんどん別のポストを経験していくので、新しい環境にすぐ適応して何でもできる「ジェネラリスト」と深い専門性を持つ「スペシャリスト」、両方の能力を求められたと思います。
仕事で英語を使う機会もありました。例えば、フランスのパリでは、トラクターの安全基準を国際的に統一するためのOECDの会議に参加しました。各国の専門家と意見を交わし、日本の農業機械の高い安全水準が世界のスタンダードとなるよう調整する仕事でした。また、出向先の町が「世界農業遺産」に登録されるよう、町長の農業遺産視察に同行し、通訳をつとめることもありました。どちらの場面でも、英語で相手の考えを正しく理解し、日本の立場を伝えることが大切でした。
―その後、AI技術を専門とする外資系企業に転職された理由は?
農林水産省には「日本の農業のためになる大きな仕事がしたい」という志を持つ人たちが集まっていてすてきな職場だったのですが、自分がやりたいことは政策づくりではなくスマート農業だったんです。
数字やデータと向き合う仕事に憧れていましたし、次のステップアップとして最先端のAI技術を学べる会社に入りました。
大量のデータをもとに新しく予想を立てて意思決定につなげる、というAIをつくっている会社なのですが、プログラミングやデータ分析、アプリ開発など、いろいろな仕事を経験させていただきました。
「人工衛星×AI」で農業を変えたい!
―昨年(2024年)に起業されたきっかけは?
人工衛星の画像を使って植物の状態をモニタリングする、という農家さん向けのサービスを自分でつくれるんじゃないかなと思ったことがきっかけです。
「農家さんたちのために何かできないかな」という想いはずっとありましたし、会社でプログラミングを覚えて何か自分でつくってみたい時期だったこともあって、勉強しながらつくってみたら、つくれてしまいました(笑)。
そこで、「人工衛星×AI」の知見を活かして農家さんのためになることをしたい、これからの農業を変えたいと思って会社を立ち上げることにしました。
―農業への熱い想いが形になったのですね。どのようなサービスですか?
畑の中でどこの作物が順調に成長しているかを簡単に把握できる生育状況モニタリングサービス「みえたん」を提供しています。
植物は、光合成が活発になると特定の波長の光を吸収・反射する特性があり、人工衛星の画像データをもとにAIが光合成の状態を解析し、異常を検知します。
衛星画像を畑の地図と重ねることで、いまどの場所の光合成が弱まっているか、過去と比較してどのような変化があるかを可視化します。これにより、例えば害虫の大量発生による葉っぱの被害や、肥料が足りなくて葉っぱがしおれている、といった問題をすぐに発見して、迅速に対応できるようになります。
生育状況モニタリングサービス
「みえたん」のイメージ
光合成の活発なエリア(赤色)と不活性なエリア(青色)を手軽に把握できる。
画像提供:株式会社 農業DX推進研究所
―とても先進的なサービスですね。目標やビジョンはありますか?
日本の農業ではいま、担い手不足や高齢化が進んでいて、畑の管理がますます大変になっています。私たちは農家さんの負担を減らしながら、作物を安定して育てて、収穫量を増やせるようお手伝いをしています。また、農薬や肥料を必要な分だけ使うことで、コストを抑えながら、環境にも優しい農業を目指せるようサポートしています。
さらに、畑ごとの特徴を分析して、「この場所にはどのくらいの肥料をいつまけばいいのか?」といった疑問に答えたり、より作物が育ちやすい畑づくりのアドバイスをしたりしています。私たちは、人工衛星の画像だけでなく、天候や土の状態などいろいろなデータを活用して、スマート農業化の支援もしています。
農業は天気や気候の変化に大きく影響される仕事ですが、データを活用することで、より計画的で持続可能な農業ができるようになります。私たちは、データ分析で農業がもっと持続可能で豊かな事業に進化することを目指して活動しています。
―グローバルな展開は考えておられますか?
株式会社 農業DX推進研究所は、日本のスマート農業技術を海外にも広めていくことを目指しています。特に、当研究所のサービスでは、人工衛星を使って世界中の農地の作物の成長をチェックできるため、日本だけでなく、海外の農家さんにも役立ててもらうことができます。たとえば、気候変動や人手不足に悩むアジアやヨーロッパの農家さんが、適切なタイミングで水や肥料をあげられるようサポートすることが可能です。また、土の状態をデータで分析し、その地域に合った農業の方法を提案する技術も提供しています。これからは、海外の農業関係者と協力しながら、国際的なイベントや展示会を通じて、日本のスマート農業の素晴らしさを世界に伝え、より安心で持続可能な食の未来を支えていきたいと考えています。
英語力から得た大きなもの
―英語がご自身に与えた影響は何だと思いますか?
子どものころに自然と英語力が身についたこと、そして、英語を通じて異文化コミュニケーション力が身についたことは、国際的な視点で物事を見る姿勢につながりましたし、キャリアの選択肢を広げてくれたと思います。
何よりも、自分に対してものすごく自信がもてるようになりました。
子どものころに英語を「がんばった」というつもりはあまりないのですが、「すごいね」、「がんばっているね」と周りがほめてくれて、喜びを感じながら過ごした日々でした。
この体験は、新しいことに挑戦するときに「自分ならがんばればできる!」と思えることにつながっていると感じています。
―英語力はどうやって伸ばしましたか?モチベーションは?
実は、中学生のときは少し手を抜いてしまいました(笑)。でも、高校1年生のときに「このままでいいのか」という気持ちが芽生えて、参考書を一気に読み込んだんです。
そしたら、いままでなんとなく知っていたこととつながって、英語のテストで毎回満点をとれるようになりましたし、好きな数学や苦手な現代文など、ほかの教科に時間を使えるようになりました。
ただ、英語を極めるというよりも、英語を使って何をするか、というところにより興味があったかなと思います。
「英語ができるだけではだめ。英語を使って何をするかが大切。マーク先生もそう言ってたでしょ。」と母からよく言われていましたし、僕も「英語を使ってするべきことが見つかるといいね」とマーク先生に言われた気がしていました。
いま自分の人生を振り返ると、僕にとっての英語は、きっと農業を何とかするためのツールなのかな、と思います。
「DWEの歌はほぼすべて母が一緒にうたってくれて、母自身もDWEで英語を覚えるのが楽しい様子だったのを覚えています。家族でWFクラブのイベントに出かけるのもモチベーションになっていました!」
―最後に、DWEキッズのご両親にメッセージを頂けますか?
子どものころに何かを遊び感覚で学べる時間はそんなに長くはないですが、その貴重な時期に英語に触れる環境をつくってくれた親にはとても感謝していますし、そういう決断をされたお母さんたちを応援したいです。
それから、大人になった今言えるのは、思っていたほど子どもが熱中してくれなくても、英語がペラペラにならなくても、英語で歌ったり会話できたりした楽しい経験は絶対に無駄にならないから大丈夫、ということです。
僕自身も、自分の人格や基礎づくりにものすごく影響しましたし、いまの仕事にも役立っているので、無駄になったことはないと思っています。
僕もいま子どもが2人いるので、親御さんが日々悩んでいらっしゃることはすごく共感できますし、もう伝えたいことがありすぎて直接お話ししたいくらいです(笑)!